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2017年4月13日

◆◆◆◆ 《第449回》トランプの迷走 ◆◆◆◆

 

トランプ大統領の政権運営がぐらついている。就任直後に発布した中東・アフリカ七ヵ国からの入国禁止の大統領令は連邦控訴裁判所によって阻止された。その後対象を六ヵ国に減らして出し直したが、これもハワイ州連邦裁判所が執行停止を命じ、狙い通りの効果をあげられない。
最大の痛手はオバマ・ケア(医療保険制度改革法)の代替案の撤回である。イギリスや日本のように公的な健康保険がないアメリカの国民は民間の医療保険に加入しないと治療が受けにくいが、低所得層を中心に六人に一人は保険に加入していなかった。その状況を改善するため、オバマ前大統領は政府が補助金を出す代わりに国民の医療保険加入を義務化した。それに要する予算は十年間で約一兆ドルに達する。
トランプはこうしたやり方を批判し、代替法案を用意したのだが、与党の共和党の支持さえ得ることが出来ず、撤回に追い込まれた。オバマ・ケアの見直しはトランプの看板政策だっただけに失敗の影響は大きい。政治家の経験がない大統領は生きた政治の怖さを思い知ったことだろう。
それでも懲りずにトランプは前政権が決めた地球温暖化対策の大半を撤廃するとともに化石燃料の増産を促す大統領令を発布した。トランプは以前から二酸化炭素の排出量を制限するパリ協定を否定している。温暖化対策を主導して来たアメリカが一転して規制を廃止すれば世界は混乱に陥る。
このようなトランプの迷走に国民のいら立ちは高まっている。トランプの直近の支持率は三十六%まで低下した。就任してから三ヵ月しか経っていない大統領の支持率としては異常に低い。これでは四年の任期を全うすることは無理かも知れない。
トランプが自分にとって都合の悪いニュースを「嘘のニュース」と決めつけることは有名だが、それがそのまま通るほどアメリカの捜査機関やニュース・メディアは甘くない。たとえばトランプ政権とロシアとの関係である。大統領補佐官(国家安全保障担当)の座を射止めたマイケル・フリンは就任前に駐米ロシア大使と接触していたことが明るみに出て辞任したが、彼が過去にロシア企業から違法な報酬を受け取っていたことも判明している。さらに昨年の大統領選挙でロシアがトランプを後押しするためにサイバー攻撃を行なった疑惑について、FBIのコミー長官は「トランプ陣営とロシアの共謀の可能性も含め、徹底的な捜査を進めている」と公聴会で発言した。もしも確かな証拠が出て来たら責任は大統領自身にも及ぶだろう。

 


トランプ政権の迷走は各国の政治に微妙な影響を与えている。先月この欄で取り上げたが、「オランダのトランプ」と呼ばれたウィルダース党首の率いる自由党が下院選挙で予想外にふるわなかったのもその例である。また韓国の最大野党「共に民主党」から大統領選挙に打って出ようとした「韓国のトランプ」こと李在明城南市長の人気も今年に入って低下し、同党は最終的に前代表の文在黄を正式な候補に選出した。
もう一人、私が注目しているのはこれから行なわれるフランスの大統領選挙のル・ペン候補である。極右の国民戦線(FN)の党首であるル・ペンは「フランスのトランプ」と呼ばれている。そのことからも分かるように彼女は不法移民の排除と出入国管理の厳格化を強く主張している。トランプが大統領に当選した時、ル・ペンは「彼は我々の希望の光だ」と絶賛した。
ル・ペンはトランプと同じようにロシアと近い関係にある。彼女は先月下旬、突然ロシアを訪問し、プーチン大統領と会談した。ル・ペンはEUがロシアのクリミア半島併合に対して課した経済制裁に反対しており、プーチンとは親しい間柄である。彼女の率いる国民戦線がロシアの銀行から融資を受けていたことも判明している。
突出した大統領候補がいない中、ル・ペンは一時支持率でトップに立ったが、最近は中道の穏健派、マクロン候補に押され気味で旗色が悪い。ル・ペンの過激な主張とロシアとの親密な関係がフランスの有権者にアメリカを混乱させているトランプ大統領を思い出させ、それが悪影響を及ぼしているのではないだろうか。
ところで本稿をほとんど書き終えた頃、アメリカがシリアを空爆した。それまでのアサド政権との融和姿勢を棄て国連とも関係国とも協議せずトランプは突然攻撃を始めた。衝動的且つ直感的に物事を決めるこの大統領はやはり危ういと思うのは私だけではあるまい。

 

在英二十余年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。
 

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