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2017年6月8日

◆◆◆◆ 《第457回》頻発するテロ ◆◆◆◆

 
イギリスは今、明らかにテロの標的になっている。マンチェスターで起きたテロから二週間も経たない先週土曜日、ロンドン橋周辺で週末の夜を楽しんでいた市民や観光客がテロリストに襲われ7人が死亡、48人が重軽傷を負った。犯人の三人組は車でジグザク走行をして橋の歩道にいた人々をなぎ倒した後、車を降りて近くのバラ市場へ乱入した。そしてパブで歓談していた客を殴りつけ、さらにナイフで刺した。犯人は通報を受けて駆けつけた警官によって射殺された。主犯格の27歳の男は幼い頃、パキスタンから難民として両親とともにイギリスへ移住したと報じられている。つまり今回の犯行もホーム・グロウンのテロリストによるものだ。
私は先週号の本欄でマンチェスター・テロについて書いた。二週続けておぞましいテロ事件を取り上げるのは気が引けるが、犯行のあったロンドン橋やバラ市場は私たちにもなじみの深い場所である。個人的なことをいえば私にとってロンドン橋はかつて金融街に通勤するため毎朝歩いた橋である。思い出のある場所で起きた凶悪な事件について何も書かないわけにはいかない。
イギリスは島国だから、地理的に中東と直接つながっている大陸のフランスやドイツに比べ、入国管理がしやすいといわれて来た。また過激集団に関するイギリスの情報収集力と捜査力は世界でもトップクラスである。一昨年来、欧州大陸のフランス、ベルギー、ドイツで繰り返し大規模なテロが起きたが、同じ時期のイギリスは比較的平穏だった。
先月、マンチェスターのコンサート会場で自爆テロが起きた時も、「警戒のきびしい首都ロンドンから離れた場所が狙われた」と受け取った向きが多かった。しかしどうやらそういう理解は間違いだったようである。イスラム過激派は今、首都とか地方とかに関係なく、明らかにイギリスそれ自体をテロの標的にしている。彼らから見れば現在のイギリスには隙があるということなのだろう。
ちょうど一年前の国民投票で「EU離脱」の道を選んで以来、イギリスの国民は将来の行方について不安な気持ちを抱えている。折しも今日(6月8日)は下院議員選挙の投票日である。過去一ヵ月余りの間、メイ首相はじめ政権の幹部は選挙運動で全国を飛び回り、ロンドンに腰を落ち着ける時間がなかった。イギリス全体がそわそわして、浮足立っていることをテロリストたちに見透かされ、そこを狙われたのではないだろうか。私は国としてどこかに油断があったと思う。


ロンドン橋のテロの後、緊急に国家安全保障会議を開いたメイ首相は官邸前の記者会見で、「我々はテロリストに対して甘すぎた。現在はテロリストがテロリストを生み出す時代だ。計算された訓練の積み重ねによって育成するのではなく、また一匹狼がインターネットの影響で過激化するのでもなく、誰かがどこかで実行したテロの影響を受け、別の誰かがそれを最も残忍な方法で真似することで新しいテロリストが生まれる」と述べた。その上で彼女は「このような変化に合わせて我々は警察やその他の公的機関が十分に力を発揮出来るようにテロ対策を根本的に見直さなければならない」として、具体的にはテロリストを幇助した者の拘留期間の長期化などを示唆した。
総選挙の投票を五日後に控えた時点でテロを決行した犯人たちは投票を延期させることも狙っていただろう。それに乗せられてしまっては民主主義の敗北である。各政党ともこの点は一致している。むろんメイ首相に延期する意向はない。
続発したテロが総選挙の結果に影響を与えることは間違いないだろう。しかしどの政党にどう有利に働くのか確かなことは分からない。年金や老人介護の見直しで支持率を下げた保守党がテロ対策のクローズアップで盛り返すのか、あるいは保守党政権の予算削減と警察力の弱体化を批判し、予算投入によって警察官を増やすと公約する労働党がさらに保守党との差を縮めるのか。私はどうも後者の筋書きになるような気がする。
ただ、選挙の結果がどうであれ、ホーム・グロウンのテロを防ぐために本当に必要なのは社会的分断の緩和である。過激思想に惹かれテロリストが生まれる背景にはイスラム圏からの移民やその2世がイギリスの社会でアイデンティティーを確立出来ない状況がある。
多くの民族を受容するイギリスらしさの中で誰もが孤立することのない社会を目指すのがイギリスの政治的課題である。そのための政策をどの政党も語っていないことが私には残念でならない。

 

在英二十余年のエッセイスト。商社や銀行勤務を経て、現在は執筆に専念。酒、旅、そして何より犬を愛する。
 

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