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徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

2016年4月15日

何ゆえ、英国の運転免許制度はかように寛容なんですの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、お変わりございませんでしょうか? 今日はまたひとつ、英国で興味深く思いましたことをご報告したく筆をとりました。

先日、英語学校の帰りに友人と歩いていたときのことです。一台の赤い小型自動車が、駐車しようと思ったのか、減速しながら道路の端に寄ってくるのが見えました。ところが、すでに駐車していた別の自動車に大きな音をたてて接触してしまったのです! 見れば、ドライバーは白髪のほっそりとした老婦人。おけがはなかったようですが、多くの人々が周辺に集まり、ちょっとした騒ぎになりました。

夕食の時間に、エドワーズご夫妻にこの出来事を話しましたところ、英国の運転免許制度について説明してくださいました。英国ではいったん運転免許証を取得しますと、大事故を起こしたり、悪質な道路交通法違反を犯したりしない限り、70歳の誕生日の前日までは10年ごとの顔写真の更新だけでよいそうです。しかも、更新の際は郵送での手続きも可能だとか。日本では免許証の更新は3年または5年に一度ですし、警察署や運転免許センターに足を運び、簡単な講習を受けなければなりません(昨年末に帰国したとき、わたくしも初めて運転免許証を更新いたしましたので、よく憶えております)。

また、英国でも70歳以降は3年ごとの更新が必要になりますが、提出するのは医師による健康チェックの書類程度とのこと。「高齢者講習」として、指定の自動車教習所で講義、運転適性検査や動体視力検査のほか、教官による実技審査を受けなければならない日本の制度とは大きく異なります。一体なぜ英国の運転免許制度は、これほどまでに寛容なのでしょう? 問い合わせてみることにいたしました。

英国運転免許庁「DVLA(Driver & Vehicle Licensing Agency)」の広報担当官によりますと、かつては年齢に関わらず3年ごとの更新が義務づけられていたとのこと。ですが、1976年から「70歳の誕生日の前日までを有効期限」とする制度を導入。なんと70歳まで一度も免許を書き換えなくてよかったというのですから(!)、驚愕してしまいます。1998年より顔写真つきの新しい免許証が発行されるようになり(それまでは顔写真はなかったそうです)、それにともなって10年ごとの更新が定められたとおっしゃっていました。つまり、更新制度を設けたのは安全運転の促進のためというよりも、顔写真変更の都合によるようです。

70歳以降の免許更新についても、判断力や反射神経が低下し、事故の危険性が増すように思うのですが、「個人の自由を奪うことになる」ので、健康で運転に適した状態であるという医師からの証明さえあれば、高齢者向けの新たな技能検査等は行わないそうです。個人の意思を尊重する英国らしい発想なのですけれど、問題視されるほど、深刻な死亡事故などが起きていないということなのでしょうか…。英国の運転免許制度は無謀なようで、実はとても合理的と言えるのかもしれません。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成28年4月11日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英1年7ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。

 

 

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