2016年5月28日
何ゆえ、日本のDVDを英国で見られないことがありますの?
愛するお父様へ
前文お許しくださいませ。
先日は、おばあ様の傘寿(編集部注・80歳の誕生日)をお祝いする晩餐会の写真をお送りくださり、ありがとうございました。出席させていただくことができず、おばあ様には申し訳なく思っております。くれぐれもご自愛くださるよう、お伝えくださいませね。
写真でおばあ様の笑顔を眺めておりましたら、初めておばあ様と一緒に映画館へ行って鑑賞したジブリの映画『千と千尋の神隠し』を見たくなってしまいました。実は、日本からDVDを持ってまいりましたので、夕食後にエドワーズご夫妻と楽しもうと思ったのですが、残念ながらご夫妻宅のテレビでは見ることが叶いませんでした…。と言いますのも、英国と日本ではテレビの方式が異なるため、英国専用のDVDデッキで日本のDVDを再生しても、映像を見られない場合があるそうなのです(パソコンなら大丈夫なのですが、わたくしのノート型パソコンの調子があまりよくないのです…)。
エドワーズご夫妻によりますと、日本や米国はNTSCと呼ばれる方式、英国などの主要なヨーロッパ諸国ではPAL方式が採用されており、互換性がないのだとか。世界的に統一した方が便利でしょうに、一体どうしてこのように面倒なことになってしまったのでしょう? いつもの好奇心が頭をもたげてまいりましたので、問い合わせてみることにしました。
パナソニックに電話をかけましたところ、カスタマーサービス担当の男性が、理系の事象にはあまり強くないわたくしにもわかりやすく、丁寧にご説明くださいました。
世界で最初にテレビのカラー放送を実施したのは米国で、1954年のこと。日本は米国が開発したNTSC(National Television System Committee)方式を導入し、1960年にカラー放送をスタートさせたそうです。
一方、米国からテレビ機器などが押し寄せてくるのを嫌ったヨーロッパでは、NTSC方式に対抗し、1967年に西ドイツでPAL(Phase Alternating Line)、フランスでSECAM(セカム、Séquentiel Couleur à Mémoire)という放送形式がそれぞれ開発・実施されました。ドイツのほか、イタリア、オランダ、英国など主要なヨーロッパ諸国がPAL方式を支持し、ロシアや一部の東ヨーロッパ諸国がSECAM方式を支持するなど、政治・経済界の思惑が絡み合い、世界に3つのテレビ放送形式が共存することになったとおっしゃっていました。
第二次世界大戦前や冷戦中は、他国の「宣伝」から自国民を「保護」するため、意図的に他国の放送形式と異なったものに変えようと研究を進めた国は多く、また現在も当時から引き継いでいる放送形式に固執する国がほとんどなので、世界的に統一するのは大変困難なようです。各国の歴史と政治が深く関わっているとなると、多少不便でも仕方のないことなのでしょうね。テレビの話から、意外な形で世界平和について考えるよい機会を与えていただきました。
それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。
かしこ
平成28年5月24日 るり子