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徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

2016年9月22日

何ゆえ、英国では黒猫は縁起がよいとされていますの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

お父様、お変わりございませんでしょうか? ロンドンもすっかり秋めいてまいりました。秋といえばアートの季節。これを機に、まだ訪れたことのない博物館や美術館などに足を運んでみたいと思っております。

さて、今回も新たに知り得ました日本と英国の違いについて、ご報告いたしますね。

英語学校のクラスメートが1年間のコースを終え、帰国することになりました。クラス全員で寄せ書きをしたメッセージ・カードを贈ろうと、「Good Luck」と書かれたカードを買いに行ったときのことです。いくつかカード・ショップを見てまわったのですが、4つ葉のクローバーの絵柄などに混ざって、黒猫が描かれたカードが多いことに気がつきました。日本では、「黒猫が目の前を横切ると不吉」などと言われ、黒猫を目にすることは不吉な出来事が起こる前兆として知られています。英国では違うのでしょうか? 気になりましたので、調べてみることにいたしました。

さまざまな資料をあたりましたところ、驚いたことに英国では黒猫は「幸運のしるし」とされていることがわかりました。しかしながら、どうやらこれはとても珍しいケースのようで、一般的にヨーロッパ大陸や米国では黒猫は不吉と考えられているとのこと。

「黒猫=不吉」というイメージの起源は、中世にさかのぼるようです。当時、ペストと呼ばれる伝染病がヨーロッパで大流行しました。原因不明かつ必ず死に至る病気の流行に人々は恐れおののき、やがて怒りや混乱でパニック状態になっていきます。そして行き場のなくなった感情をぶつける対象になってしまったのが「魔女」でした。このような謎の病気が蔓延するのは魔女のせいだ…!との声が次々とあがり、「魔女狩り」へと発展していったのです。闇に溶け込むような毛色を持つ黒猫も、「魔女の使い魔」として同様に忌み嫌われ、迫害されたのだとか。こうした歴史から、黒猫は不幸(死)を運ぶ縁起の良くない生き物というイメージが、現在も残ってしまっているようです。

では一体なぜ、英国では正反対の幸運を呼ぶ存在として歓迎されているのでしょう?

これについては、残念ながら明確な答えを見つけ出すことはできませんでした。ただ一説では、17世紀の国王チャールズ1世が、飼っていた黒猫を大変可愛がっていたことに由来するとか。その黒猫の死に際し、国王は「幸運が去ってしまった」と嘆き悲しんだそうです。この言葉を表すかのように翌日(!)、清教徒(ピューリタン)革命によりチャールズ1世は捕縛され、裁判で死刑が宣告されます。3日後にはホワイトホール宮殿のバンケティング・ハウス前にて、公開斬首刑に処されたということでした。少々『できすぎ』た話のように感じますが、これ以降、英国では船乗りたちが乗船させる「船乗り猫(Ship's cats)」(船にひそんでいるネズミを退治する猫のことです)は、縁起を担いで黒猫にすることが多かったそうです。

またひとつ、英国の文化について学びました。それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成28年9月20日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。
 

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