何ゆえ、英国では花火は秋・冬の風物詩なんですの?

徳川るり子の細腕感情記Ⅱ

2016年11月4日

何ゆえ、英国では花火は秋・冬の風物詩なんですの?


徳川るり子

愛するお父様へ

前文お許しくださいませ。

昨日、友人が主催するハロウィーン・パーティーに参加いたしました。近ごろは日本でも大きな話題(社会問題)となっているようですが、わたくしにとっては初めての大人限定ハロウィーン・イベント。参加者は必ず仮装することが条件でしたので、思い切ってわたくしは魔女、友人は黒猫に扮装いたしました。移動中は少々恥ずかしく思いましたが、会場に到着すると大勢のゾンビや骸骨、ヴァンパイアなどの姿が! いろいろなお化けや悪霊(?)の方々と交流しながら、大変楽しく過ごすことができた次第です。ちなみに、マナーをきちんと守って楽しみましたのでご安心くださいませね。

さて、今日も日本と英国の習慣の違いをまたひとつ発見いたしましたので、それについてご報告いたします。

最近、日が暮れますと、家の近所で花火が打ち上げられているのをよく目にいたします。日本では、大規模な花火大会以外で家族や友人たちと楽しむ花火といえば、手持ち花火や噴出花火などが中心ですが、英国ではなんと打ち上げ花火が一般的なのです! 「本格的」な花火が次々と夜空に咲き乱れますので、渡英したばかりの頃は本当に驚きました…。スーパーマーケットにも花火セットが並んだコーナーが登場し、どうやら英国では今が花火の季節である模様。夏の風物詩として慣れ親しんでいるわたくしにとって、寒空の下の花火はなにやら違和感がございます。一体なぜ、英国では冬に花火を楽しむのでしょう? 好奇心が抑えられず、調べてみることにいたしました。

いくつか資料をあたりましたところ、英国の花火の起源は1605年にさかのぼるようです。当時弾圧を受けていたカトリック教徒の過激派たちは、プロテスタントを信仰していた国王ジェームズ1世の暗殺を計画。国会議事堂に爆薬を仕掛け、建物もろとも国王を「爆殺」しようと企みました。ところが、この計画は密告により失敗。過激派の中心人物で主犯のガイ・フォークスは、火薬の樽がずらりと並ぶ国会議事堂地下の貯蔵庫で逮捕され、翌年に処刑されました。国民は国王が九死に一生を得たことを祝い、ガイ・フォークスが逮捕された11月5日に花火を打ち上げるようになったとか。また、ガイ・フォークスの人形をつくり、かがり火の中に投げ入れて燃やす習慣も、この時に生まれたそうです。

400年以上経った今でも、毎年11月5日前後になると、「ガイ・フォークス・ナイト」(またはボンファイヤー・ナイト)と呼ばれる花火イベントが、各地で開催されます。静かにその風情を楽しむものではなく、賑やかな音楽や照明、会場を盛り上げる陽気なアナウンスとともに花火を打ち上げる「お祝い」ですので、日本の花火大会とはかなり趣が異なるようです。

このほかにも、11月の第2土曜にはロンドン新市長(名誉職)の就任を祝うパレードと花火、大晦日には新年の幕開けを祝う花火があるため、英国では花火は秋~冬の風物詩となっているとのことでした。今年は、わたくしも英国の花火を存分に楽しみたいと思っております。

それでは今日はこのへんで。お母様にもよろしくお伝えくださいませませ。

かしこ
平成28年11月1日 るり子


とくがわ・るりこ◆ 横浜生まれのお嬢様。名門聖エリザベス女学院卒。元華族出身の25歳。あまりに甘やかされ過ぎたため、きわめてワガママかつ勝気、しかも好奇心(ヤジ馬根性)旺盛。その性格の矯正を画する父君の命により渡英。在英2年1ヵ月。ホームステイをしながら英語学校に通学中。『細腕感情記』(平成6年3月~平成13年1月連載)の筆者・徳川きりこ嬢の姪。