logo
 
2014年3月13日

 

ご当地ワインと郷土料理&名産物③ローヌ川流域南部 その5

剣の名手が隠れ住んだ丘

引き続き、ローヌ川流域をめぐることにしたい。リヨンからローヌ川に沿って高速7号線を75キロほど南下すると、ローヌ川流域で最も有名かつ偉大なワイン産地エルミタージュHermitageがある。ローヌ川東岸に位置する3つの小山からなる丘陵の、南向き急斜面に築かれた段々畑の産地だ。 
伝えられる話によると、南仏のアルビ派の異教徒たちと戦い、1224年に身も心も傷ついて戻ってきた十字軍騎士の一人、ギャスパール・ドゥ・ステランベールGaspard de Sterimbergが、世を捨てて、ローヌ川のほとりの険しい斜面の荒地に『隠れ庵』(フランス語で「隠遁者」を「エルミットermite」、「隠れ庵」を「エルミタージュ」と呼ぶ)を建てて一人住み始めた。彼は剣の名手でもあったが、鋤の扱いも達者で、庵の周りにブドウ畑を作り始めて間もなく、その痩せた土壌の丘をブドウの樹で覆うほどにしたことから、この丘がブドウ産地として有名になったという。後に、彼の隠れ庵のあった場に礼拝堂が建てられ、今でも丘陵斜面にぽつんと建っているのを見ることができる。
エルミタージュを代表する生産者には、ジャブレJabouletやシャプティエChapoutierが挙げられ、ジャブレの名高いワインに「ラ・シャペルLa Chapel」(「礼拝堂」の意)の名を持つエルミタージュ・ワインがあるが、この礼拝堂を所有しているのは、実はライバルのシャプティエというのも皮肉な話だ。

50年もの時間の中で進化を続けるワイン

エルミタージュといえば、ほとんどはシラーSyrah種から造られる赤ワインだが、ルーサンヌRusanne種とマルサンヌMarsanne種から少量の白ワインも造られている。赤、白いずれも若いうちは荒さが目立つものの、8年ほど熟成させると、ビロードのように滑らかな口当たり、複雑な香味を備えた芳醇でスケールの大きいワインとなる。「Hermitage」と名乗るワインの多くは10~20年の熟成に耐えるが、前記2社を含む幾つかの造り手は単一畑名のエルミタージュも造っており、それらのワインは50年間は持つというシロモノだ。そのようなワインは、若いうちはタンニンが強く、カシスやブルーベリーといった色の濃いベリー類、杉の葉やタールを感じさせる重厚なワインだが、長期熟成させることによってタンニンがまろやかになり、やがて栗やトリュフ、森の下草、紅茶やコーヒーを想わすブーケを呈するようになり、ビロードのように滑らかで、香味が何層にもなった厚みのあるワインになる。

同じくシラー種からワインを造るエルミタージュの隣村

同じくエルミタージュの名がつくワイン産地にクローズ=エルミタージュCrozes=Hermitageがある。これは、エルミタージュのワイン産地を囲むようにして位置する大きなエリアで、入手しやすい価格のワインを産出している。同じくシラー種から造られるワインながら、きわめて上質な例外を除き、一般的に5年以内に飲むように造られている。
一方、川の対岸にコルナスCornasという、これまたシラー種だけから造る赤ワインの産地がある。ここのワインは過小評価されているように思える。若いうちは獰猛といえるほどパワフルなタンニンが特徴で、黒っぽいルビー色をした、黒いベリー類の風味を呈す重厚で固いワインだが、長期熟成させることによってエルミタージュに似た醍醐味が楽しめるワインだ。

富裕な美食家たちの集う地

パリからリヨンを通って南下するルートとなるこの地方は、パリから避暑を目的に訪れる裕福層たちの宿泊地となるために、ジョルジュ・ブランGeorge Blanc(ヴォナVonnas村)、ポール・ボキューズPaul Bocuse(コロンジュ・オ・モン・ドールCollonges-au-Mont-d'Or村)、トロワグロTroisgros(ロアンヌRoanne村)のミシュラン3つ星のレストランを始め星付きのレストランが競い合うように並び立つ。そうした店のひとつで、エルミタージュの丘のふもとにあるRestaurant Jean Marc Reynaud(82 ave du P. Roosevelt, 26600 Tain-l'Hermitage Tel: 04 75 07 22 10)を筆者が訪れたのは数年前になるが、そこのトリュフとウイキョウ入りメーヌ・クリーム添え伊勢えびのタンバル、ポート・ソース添えフォアグラと山バト胸肉のフォンダンの味はひときわ印象深く思い出される。

ミヨコ・スティーブンソン Miyoko Stevenson
WSETディプロマ取得。Circle of Wine Writers会員。Chevalier du Tastevin(利き酒騎士)団員。Jurade de St-Emilion団員。International Wine Challenge審査員。The Guild of Freemen of the City of London会員。ワイン関連の訳書・著書あり。現在、ロンドンでワイン教室を主宰。
www.miyokostevenson.co.uk
e-mail : 
このメールアドレスはスパムボットから保護されています。閲覧するにはJavaScriptを有効にする必要があります。

 

2017年 03月 23日

2017年 03月 17日

2017年 03月 22日

2017年 03月 01日