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主との晩餐と焼き餃子(下)

 
石田ゆうすけ
旅行作家。
7年半かけて自転車で世界一周を敢行。9万5千キロ、87ヵ国を走り、2002年末に帰国。現在は全国各地で講演も行う。著書に『行かずに死ねるか!』『地図を破って行ってやれ!』ほか。2014年2月に最新刊『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館)を上梓。ブログも更新中→「石田ゆうすけのエッセイ蔵

 

フィリピン人の女中さんが外で泣いているのを見たとき、ふいに宿主のおばさんの笑顔が脳裏に浮かんだ。あんなに感じのいい人なのに、もしかしたら従業員には冷たいのだろうか。あるいは出稼ぎ労働者に対する分け隔ての感情なんかも……。

僕の想像がそこまで飛躍したのは、これまでアジアやアフリカで、主と従――とくに外国人労働者――の厳しい関係を多く見てきたからだった。

女中さんに「どうしたんだい?」と聞いてみた。彼女は携帯電話とカードを僕に見せ、「何度かけても子供たちにつながらないの」と泣き濡れた目で言う。カードはスクラッチして出てきた番号を入れると格安で国際電話をかけられるプリペイドカードだ。僕も1枚持っている。まだいくらか残っているはずだ。僕はそれを取り出して彼女に渡し、「これでもう一度かけてみなよ」と言った。

彼女は丁寧に礼を述べ、僕のカードでかけ始めた。ところがやはりつながらないのだ。彼女の携帯電話に問題があるのかもしれない。

僕は彼女を宿主のおばさんのところに連れていき、事情を話した。するとおばさんは心配そうな表情を浮かべ、自分の携帯を取り出した。僕が「これでかけて」と自分のカードを渡すと、宿のおばさんは「いいからいいから」と笑顔で制し、「これでそのままかけな」と自分の携帯を女中さんに手渡した。彼女は頭を下げ、番号をプッシュした。電話はつながった。彼女はホッとしたようにタガログ語で話し始めた。僕もおばさんも顔を見合わせ、小さく微笑んだ。

 

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台湾では焼き餃子を「鍋貼」と呼ぶ

 

翌朝7時に起きて外に出ると、女中さんはすでに庭の掃除を始めていた。僕は久しぶりに英語を話せる嬉しさで、彼女と他愛のない話をした。その中で収入の話になった。今の仕事の月収が日本円換算で2万1000円だという。雇用者である宿が支払うのは4万5000円だが、そのうちの2万4000円は彼女に仕事を斡旋した代理店に渡るらしい。ちょっと取られすぎじゃないか、という気がする。繁栄を遂げた台湾でも、外国人労働者の権利は適正に守られず、旧態依然のままなのかな、と思った。しかし、では日本はどうなんだろう? 外国人労働者の権利は守られているだろうか。法外な手数料をとる斡旋業者はいないだろうか……?

それから荷物をパッキングし、女中さんや宿のおばさんに別れを告げ、走り始めた。何かもやもやした思いが胸に漂っていた。

町外れに手ごろな食堂があった。「湯包」という文字が見える。小籠包のことだ。店主と思しきおじさんが店頭にいたので、「この湯包は手工(手作り)ですか?」と聞いてみた。おじさんは「違う」ときっぱり言う。それじゃ申し訳ないけど別の店に行こうか。そう思っていると、「お前さんどこから来たんだい?」と店主が聞く。「日本からです」と答えると、店主は笑顔になって「そうか、じゃあ座れよ」と言った。昨日の宿のおばさんもそうだが、なぜかみんなすごく愛想がいい。親日だとは聞いていたが、やはりそれを感じずにいられないのである。

店主に言われるがまま席に座ると、コーヒーが出され、そのあと焼き餃子が出てきた。日本のものよりずいぶん細長い。「御馳走するよ、こっちは手工だ」と店主は笑いながら言った。なんて国だよ。もやもやしたもので膨れていた気持ちが急に裂けたように、胸が温かくなった。

店主に礼を言って焼き餃子をつまみ、口に入れた。日本の餃子に似ていたが、やはりほかの多くの台湾料理と同じように、やさしい味がした。

トロカツ
 
 

2017年 02月 16日

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