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【台湾編 52皿目】
先住民の酒とビンロウの味 その2

 
石田ゆうすけ
旅行作家。
7年半かけて自転車で世界一周を敢行。9万5千キロ、87ヵ国を走り、2002年末に帰国。現在は全国各地で講演も行う。著書に『行かずに死ねるか!』『地図を破って行ってやれ!』ほか。2014年2月に最新刊『大事なことは自転車が教えてくれた』(小学館)を上梓。ブログも更新中→「石田ゆうすけのエッセイ蔵

 

「ビンロウだよ」

と聞いたとき、やっぱりそうか、と思った。みんな口の中が真っ赤なのだ。台湾の合法ドラッグ、といえば聞こえが悪いから、タバコのような嗜好品といったほうがいいか。

台湾のあちこちにこの専門店がある。前にも書いたが、台湾西部にはセクシーな恰好の女性がガラス張りの小屋で売るといった、風俗店にしか見えないような店がいたるところにあった。集客効果を狙った形態というだけで、男女のサービスがあるわけではないらしいのだが……。

その後、台湾東部に入ると、その手の妖艶な店は見られなくなり、代わりに薄汚れた暗い小屋で、目つきの悪いオッサンややり手婆のようなオバサンが待ちかまえているといったますます入りにくい形態に変わった。だから僕はまだ一度もビンロウを試していなかった。

「それ、もらってもいい?」

恐る恐るそう言うと、彼らはニヤリ、と笑った。

彼らに倣って、青いどんぐりのようなビンロウに石灰を塗り、キンマと呼ばれる葉に巻いて口に入れる。噛むと、青臭い汁がジュッと口にあふれて舌がしびれ、顔をしかめた。やけに渋い。なおも我慢して噛んでいると、しだいに手足がポカポカして顔が熱くなり、気分が高揚してきた。そして口にたまったものをペッと吐くと、唾液は血のように赤い色をしている。それを見て僕はワハハハハハと笑いまくった。意外と効き目が早い。でも天然ものだからか、冷めるのも早かった。もう1個口に入れ、クチャクチャ噛み、ペッと吐く。真っ赤な唾液を見て再びワハハハハと笑う。楽しい楽しい。途中から自分のこのハイテンションは、酒由来かビンロウ由来かわからなくなった。ま、おそらく両方だろう。

 

ビンロウと石灰

 

アミ族のみんなとひとしきり笑ったあと、酒やビンロウの礼を言って僕は再び出発した。みんな笑顔で手を振ってくれ、僕も何度も振り返って手を振った。

雨は降り続いていて気温は冷たかったが、体は依然として温かかった。酩酊も続いていて、ハンドルさばきが怪しかったが、車がほとんど来ない道なので問題ないだろう。

山あいをしばらく縫うように走ると、急坂が始まった。ギヤを落とす。ガラガラと音をたて、チェーンが外れた。舌打ちしながらUターンし、下りでペダルを回すと、うまい具合にチェーンが戻った。そうして再び坂を上ろうとUターンしたら、濡れた路面にスリップした。

「あ、やべ」

ふんばろうとしたが持ちこたえられず、自転車に乗ったままアスファルトめがけて右肩から落ちていった。そうして全体重が右肩に集中する恰好で道に激突、ミシッと何かが砕ける音がした。

(やっちまった)

と、次の瞬間、

「ぎゃあああああっ!」

気絶しそうなほどの激痛が体を駆け抜けた。痛みと恐怖をごまかすために、すぐに立ち上がって、アホかっ!と叫んだ。何やっとんじゃ! ボケ! カス! と己を罵倒し、動物園のクマのようにうろうろ歩いた。そして少し痛みが治まってから、おそるおそる右腕を上げてみると、

「ぐあっ!」

目の前に火花が散り、再び激痛が走った。しかし何よりゾッとしたのは、腕が少しも上がらなかったことだった。祈るような思いで左手をそろそろとのばし、右肩に触れた瞬間、サッと血の気が引いた。肩に、指が一本入るほどの段差ができていたのだ。《つづく》

トロカツ
 
 

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