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「運」と「人脈」に恵まれたストウ屋敷時代

 こうして造園家として幸運なスタートを切ったブラウンは、二十代のはじめにロレイン卿のもとを離れリチャード・グレンヴィル卿の屋敷に雇われるが、まもなく彼の義理の息子であるテンプル家のコバム卿(リチャード・テンプル子爵)の目にとまり、バッキンガムシャーにある英国有数のストウ屋敷へと移る。
 当時、この屋敷の造園を指揮していたのは庭園史上の重要人物ウィリアム・ケント。広大な土地をキャンバスに「風景画を描くように」造園を行うと称された、当時の最先端をゆく「風景式庭園(landscape garden)」を生んだのが彼だった。ブラウンはここで晩年を迎えていたケントから様々な植物の知識や建築技術、土木工事といった大掛かりな技術までを学び、生来の才能に磨きをかけていく。
 またケントの造園スタイルは、ブラウンの自然派志向に重なる部分があった。彼はこれ以上望むべくもない師を得たのである。こうしてケントの右腕的存在へと登りつめたブラウンは、彼の引退後は主任庭師として、ストウ庭園の造園作業を引き継いでいった。
 屋敷の主人であるコバム卿は社交家で進取の精神に富み、屋敷に客人を招いてもてなす機会も多かったのもブラウンにとって幸いした。流行の最先端をいくストウ庭園に魅了された客人たちが、造園家ブラウンに注目しはじめたのだ。こうして彼はそこに居ながらにして未来のクライアントを獲得していく。また園芸業者など、ケントから引き継いだ人脈も後の彼の仕事に大いに味方した。
 本人の才能もさることながら、格好の雇い主、優れた師匠、そして人脈などに恵まれ、何拍子も揃った環境で本格的にキャリアをスタートすることができたブラウンは強運の持ち主だったといえよう。実際、ストウ庭園での主任庭師時代にも、ブラウンはコバム卿の依頼を受けて他の貴族の庭園に出張し、より自分らしいスタイルを打ち出した庭園を作り上げている。
 またこの時代、プライベートでも充実した日々を送ったようで、彼は地元の娘ブリジット・ワイエットを妻に迎え、四子のうちの最初の子供をもうけている。家族のために、とブラウンが一層仕事に精を出すようになったと考えても差し支えないだろう。

Stowe Landscape Garden,
Buckinghamshire
ブラウンの造り上げた庭園では、ふいに息をのむような眺めが目の前にひらけることがあり、劇的な効果に感嘆の声をあげたくなる(ペットワース・ハウス)。© National Trust Images/Andrew Butler

いよいよロンドンに進出

 長年の主人であったコバム卿が死去したことをきっかけに、一七五〇年代のはじめに、ブラウンは十年近くを過ごしたストウ屋敷を離れロンドンへと向かう。造園設計家として独立するためである。その頃、同業者が多く居を構えていたというハマースミスを居住場所に選び、ブラウンは本格的な営業活動を始めた。
 当時、上流階級の紳士たちは郊外や地方の広大な屋敷に加えて、社交のためにロンドンにも住宅を構えているのが常であり、ブラウンの腕前はすでに人々の知るところとなっていた。
 看板をあげてまもなく、顧客獲得には苦労しないどころか、方々から依頼が殺到し始めた。この時期から約十年はブラウンの黄金期ともいうべき時期で、彼は前述のブレナム宮殿やチャツワース、ペットワースなどに代表される名庭園を次々と作り出していく。「ケイパビリティ」というニックネームが生まれたのもこの頃だ。
 ケントの元で建築技術も学んでいた彼は建築家としての依頼を受けることも多々あった。仕事はストウ屋敷のように十年がかりのプロジェクトもあれば、アドバイザーとして意見を提案するのみといった立場もあったというが、常に複数のプロジェクトを掛け持ちし、各地を飛び回る日々だった。彼自身が「ケイパビリティ」の名にふさわしい人物だったというわけだ。

 

庭園探訪①ブレナム宮殿

ブラウンの才能が存分にいかされた、ブレナム宮殿の庭園 © Magnus Manske
 オックスフォードシャー、ウッドストックにあるブレナム宮殿は、18世紀初頭に勃発したスペイン継承戦争で決定的な勝利をおさめた司令官、マールバラ公ジョン・チャーチルの功績を讃え、当時のアン女王が贈った大邸宅。彼の子孫にあたる、第二次世界大戦中の英国首相ウィンストン・チャーチルがこの宮殿の一室で生まれ、庭園で夫人にプロポーズをしたというロマンティックな逸話も知られている。また『オルランド』(1992)や『ハムレット』(1996)など歴史を扱った英国映画のロケ地としてもお馴染みだ。
 ブラウンは1764年よりこの宮殿の造園に着工。英国バロック式建築の傑作とされる宮殿をとり巻く2100エーカー(約850ヘクタール)という広大な土地をキャンバスに、川をせき止めて人工湖を作り、装飾的すぎる彫像や花壇などを取り壊して緑の大海原を作り出すなどそれまでの庭を一新、思わずため息のもれる壮大な風景を描き出した。オックスフォードやコッツウォルズ、ストラットフォード・アポン・エイヴォンからもほど近いため、観光ルートに組み込みやすいのも嬉しい。1987年には世界遺産にも指定されている。
【住所】Blenheim Palace, Woodstock, Oxfordshire OX20 1PP
www.blenheimpalace.com/


ブレナム宮殿周辺の大改修後の様子(F.O. Morris作/1880年)

 

2017年 03月 23日

2017年 03月 17日

2017年 03月 22日

2017年 03月 01日