logo
 

週刊ジャーニー最新号 eBook

週刊ジャーニー最新号表紙

No.992 7月13日発行号

週刊ジャーニーをオンラインで読む 【特集】ごくウマ3選「トマト」のレシピ
  • 英国時間の木曜17時更新
  • 紙版の定期購読はこちら
2012年8月30日 No.743

取材・執筆/根本玲子・本誌編集部

化石ハンター
メアリー・アニングの情熱

世界に先駆け地質学研究が発展した
19世紀初頭のイングランドに
プロの女性「化石ハンター」がいた。
彼女の名前はメアリー・アニング。
今号では貧しい階層の出身ながら
時代の最先端をいく学者たちと渡り合い、
不屈の精神で化石発掘に人生を捧げた
ひとりの女性の偉業をふり返りたい。

 

プロの化石ハンターとして、化石発掘に全身全霊をかけたメアリー・アニング。採掘には、愛犬「トレイ」=肖像画内で、向かって右下にうずくまっているイヌ=を伴って出かけることが常だったという。しかし、採掘中に起こった地滑りによって、そのトレイを目の前で失うという悲しい事故を体験した。なお、メアリーは恋愛については多くを語らなかったが、夫や自分の子供の代わりに母親モリー、愛犬トレイ、そして他の子供たちや病人に愛情を注いでいたと伝えられている。


 

◆◆◆ 化石ハンター誕生 ◆◆◆


 



ジョセフとメアリーが見つけた、イクチオサウルスの頭部の化石=エヴェラード・ホーム(Everard Home)によるスケッチ(1814年)。
 冬の嵐が過ぎ去ったばかりの海岸。
もろく崩れやすい崖の断面から覗く巨大な眼窩、くちばしの様な細長い口にびっしり並んだ歯。かつて誰も見た事もない不思議な生き物の頭部が、少女と兄の目の前にあった。
4フィート(約1・219メートル)もある頭骨を慎重に岩場から掘り出した2人は、化石を土産物として販売する小さな店を営んでいた自宅へと、この不思議な『物体』を持ち帰る。ニュースを聞き及んだ村人たちが続々と店を訪れ、この奇怪な発見について喧々ごうごうの議論を始める。
実物はだれも見たことがないけれど、これが、人々がクロコダイルと呼ぶ生き物なのだろうか。少女は父がかつて語った様々な話を思い起こしながら、この生き物の正体について思いを巡らしたに違いない。そしてどこか近くに埋もれているはずのこの生物の残り部分を探し当ててみたいと熱望したはずだ。少女の小さな瞳の奥には、情熱という名の炎がすでに激しく燃え盛っていたのである。
ロンドンの観光名所のひとつ、サウス・ケンジントンにある自然史博物館の中でもひときわ高い人気を誇る化石ギャラリー内に展示された、ジュラ紀の首長竜「プレシオサウルス」。この化石の脇に、岩場にたたずむ婦人の小さな肖像画が添えてあるのをご存知だろうか。
彼女の手にはその服装には似つかわしくない1本のハンマーが握られている。
この絵のモデルこそ、2010年に王立学会が発表した「科学の歴史に最も影響を与えた英国人女性10人」の1人に選ばれたプロの化石ハンター、メアリー・アニング(Mary Anning 1799~1847)だ。
冒頭で触れたのは、彼女と兄が発見した化石で、2億年前もの昔に存在した、イルカのような姿をしていたというジュラ紀の魚竜「イクチオサウルス」の頭部である。
この後、残りの胴体部分の化石を見つけ出した彼女は、世界で初めてイクチオサウルスの完全な骨格標本を発見した人物となる。当時わずか12歳。食べていくために、地元で化石を掘り出し土産物として売っていた貧しい「化石屋」の娘が、どのような経緯で世界的な発見に至り、19世紀初頭に英国でも盛んになりつつあった古生物学の世界への道を拓いたのか。彼女の幼少期から順を追って探っていきたい。


 

◆◆◆ 雷に打たれた赤子 ◆◆◆


 

 中生代のジュラ紀に形成された地層が海へと突き出した、東デヴォンからドーセットまで続くドラマチックな海岸線は、ユネスコの世界自然遺産にも登録され、化石の宝庫であることから現在はジュラシック・コースト(Jurassic Coast)とも呼ばれる。
英仏海峡に面したライム・リージス(Lyme Regis)は、ジュラシック・コースト沿いにある、何の変哲もない小さな町だ。ここで、メアリーは1799年、家具職人リチャード・アニングの娘として誕生した。リチャードは妻のメアリー・ムーア(通称モリー)との間に10人の子供をもうけたが、流行病や火傷などの事故によってほとんどの子供たちが幼少時に他界し、成人まで生き残ったのはメアリーと兄のジョセフだけだった。
子供の生存率が低かったこの時代、アニング家の事情はさほど珍しくはなかったとはいうものの、夫妻は跡継ぎの長男のジョセフ、そして3歳年下のメアリーを、貧しいなりにも大切に育てていた。

1812年にジョセフとメアリーが発見した、イクチオサウルスの化石のスケッチ(1814年発表)。
 しかしある時、隣人女性が、生後15ヵ月だったメアリーを抱き木陰でほかの女性2人と馬術ショーを観戦していた際、思いがけない事故が起こる。雷がその木を直撃、メアリーを抱いていた女性を含む3人が死亡したのだ
赤子のメアリーも意識不明となるが、目撃者が大急ぎでメアリーを連れ帰り熱い風呂に入れたところ奇跡的に息を吹き返す。そして不思議なことに、それまで病気がちだったメアリーはその日以降、元気で活発な子供になったとされ、町の人々はメアリーが成長したのちも「雷事件」が彼女の好奇心や知性、エキセントリックと評される性格に影響を及ぼしたに違いないと噂しあっていたという。

 

週刊ジャーニー最新号 eBook

週刊ジャーニー最新号表紙

No.992 7月13日発行号

週刊ジャーニーをオンラインで読む 【特集】ごくウマ3選「トマト」のレシピ
  • 英国時間の木曜17時更新
  • 紙版の定期購読はこちら
無敵艦隊、壊滅への道

超大国スペインと弱小国イングランドの
『激突までの道のり(前編)』 『激突の瞬間(後編)』

写真で旅するロンドン @journey.london


2017年 07月 20日

2017年 07月 14日

2017年 07月 19日

2017年 06月 30日