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2013年8月29日

●Great Britons ●取材・執筆/本誌編集部

 

救世主か、破壊者か―。
鉄の女 マーガレット・サッチャー
《前編》


大学卒業後の1950年頃、化学関連の会社で研 究員として働いていたマーガレット。© AP Photo

『鉄の女』と呼ばれた英元首相マーガレット・サッチャーが、今年の4月この世を去った。
テレビや新聞の追悼特集に触れ、政治家としてのその偉大さを改めて知らされた人も多いだろう。
一方で、彼女を忌み嫌う人々の姿に言葉を失った人もいるのではないだろうか。
英国初の女性首相として、沈没寸前だった英国を確固たる信念で救った彼女の生涯を、
今回と次回の2週に分けてたどることにしたい。

 

【参考文献】『サッチャー 私の半生 上・下』マーガレット・サッチャー著、石塚雅彦訳、日本経済新聞社刊/『サッチャリズム 世直しの経済学』三橋規宏著、 中央公論社刊/ 『Margaret Thatcher 1925-2013』The Daily Telegraph/『The Downing Street Years』Margaret Thatcher 他

 

英国の世論を分断

 

 2013年4月8日、ロンドン中心部のザ・リッツ。英国の数ある高級ホテルの中でも豪奢なことで知られるホテルだ。時計は午前11時を打っていた。第71代英国首相マーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)は、お気に入りのスイート・ルームで、ベッドにゆったりと腰を掛けていた。
1979年から1990年までの間、英国首相を務め、2002年より政治の表舞台から姿を消していたマーガレットは、度重なる脳卒中と認知症とに悩まされてきた。昨年末には膀胱にできた腫瘍を摘出する手術を受け、比較的簡単な手術は無事に成功したが、術後は自宅ではなく同ホテルに滞在していた。病身の彼女にとって、ロンドン・ベルグレイヴィアにある4階建ての家よりも、このスイート・ルームで暮らす方が好都合だったからだ。
10年前に夫デニス・サッチャー(Denis Thatcher)に先立たれ、双子の子供は海外に居住していたことから家族は近くにおらず、2人の介護者が交代で、24時間体制で付き添って過ごしていた。
健康状態が安定しないため訪問者は制限されていたが、首相就任10年の記念に贈られた銀食器や、彼女が11年半を過ごした首相官邸で撮影された写真が誇らしく飾られていたこの部屋には、友人らが訪れ、政治談議に花を咲かせた。時には得意の辛辣な冗談で訪問者を笑わせることもあった。過去の記憶があいまいではあったが、それでも彼女の目は未来に向けられていた。「私の父はよく口にしたわ。大切なのは過去に何を行ったかではなく、これから何を行うかということ」。
この日もいつものように静かに座り、読書にふけっていた。幼い頃から書物に触れては、そこに広がる未知なる領域に時が経つのを忘れて没頭し、多くを学んできた。文字を追いながら、様々に思いを巡らせていたに違いない。
ところが午前11時半をまわろうとしていたとき、マーガレットは脳卒中に見舞われ、不意に思考はさえぎられた。
「ミセス・サッチャー、ミセス・サッチャー」
「早く、お医者様を!!」
異変に気づいた友人らによってすぐに医師が呼ばれたものの、今回の発作は一瞬にして彼女を連れ去って行った。
英国を率いた元首相の訃報はその日のうちに各メディアによって伝えられた。デイヴィッド・キャメロン首相は、訪問先のスペイン・マドリッドから急遽帰国。「国を救った偉大な指導者」と讃え、その死を悼んだ。翌日には、17日にセント・ポール大聖堂で国葬級の葬儀を執り行うことが発表された。
葬儀には、エリザベス女王をはじめ、各国の政治家などおよそ2000人が参列。パレードが行われた通りには、沈痛な面持ちの市民が幾重にも重なるように列をなし、瀕死の状態にあった英国を救おうと闘い抜いたひとりの女性政治家への最後の別れを行った。
他方、英国各所では一部の市民らが高揚していた。「弱者を切り捨てた魔女が死んだ!」というシュプレヒコールをあげ、口が張り裂けた魔女を模した似顔絵が描かれたプラカードを掲げる老若男女、まるで凶悪犯の死を喜ぶかのように祝杯をあげる人々。
死を祝う歌として、映画『オズの魔法使い』の挿入歌『鐘を鳴らせ! 悪い魔女は死んだ(Ding Dong! The witch is dead)』が英国の音楽配信チャートで上位に踊りだした。税金を使って葬儀を挙げることに抗議の声が続出し、国民1人当たりの負担額はいくらになるかといった内容の記事が、新聞を賑わした。
「サッチャーは英国の救世主か、それとも破壊者か」
死してなおも世論を大きく分断するマーガレットが英国に何をもたらし、何を奪ったのか。そして彼女の心に残ったものとは。闘いの連続だったその生涯を振り返ってみたい。

 

 

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