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2014年7月31日

●Great Britons●取材・執筆/佐々木 敦子・本誌編集部

 

近代郵便制度を確立した
熱血改革家
ローランド・ヒル



Penny Black image courtesy of Royal Mail Group

産業革命の影響で電信や交通の手段が大きく変化した19世紀。
一般市民はなかなかその恩恵にあずかることができないでいた。
そうした時代に、最新技術をどのように市民の暮らしに
広めるか心を砕き、世界の郵便制度に大きな影響を与えた
ローランド・ヒルという人物がいる。
今回は、ヒルが特に心血を注いだ郵便改革を中心に、
彼の数々のアイディアを紹介。小さな1枚の切手から、
19世紀前半に英国民の置かれていた状況が
浮かび上がってくるかもしれない。

参考文献:『The Life & Work of Sir Rowland Hill』 Jean Farrugia著 National Postal Museum 1979 / 『Rowland Hill – Genius and Benefactor 1795-1879』Colin G. Hey著 Quiller Press London 1989 / 『Postal Reform & The Penny Black – A New Appreciation』Douglas N Muir著 National Postal Museum 1990 取材協力:The British Postal Museum & Archive

 

「社会改革家」と呼ばれる人々が 存在した時代

 1795年12月3日、イングランド中西部のウスターシャー。ローランド・ヒル(Rowland Hill)は、中産階級の一家に、8人兄弟の三男として生まれた。彼は、日々の食い扶持に困っていたとか、両親から虐待を受けていたとか、そういった不自由な暮らしとは縁のない幼少期を過ごすことになるのだが、日頃からいくつもの社会改革案を持っていた。こう聞くと、ヒルのように平凡に暮らす者が若い頃から社会改革に関心を抱き、没頭するのは少々とっぴなことに感じるかもしれない。
その疑問に対する答えの一つに、「時代の影響」がある。産業革命によって新しい技術や制度が次々に生まれ、社会が進歩すればするほど、それに取り残される人々も増えてきた。それは主に労働階級を中心とした一般国民なのだが、彼らは職を通じて産業革命に貢献しながらも、単なる労働力としてまるで道具のように扱われていた。
そうした事態に対処しようと立ち上がった人々が、この時代に多く現れる。英国では協同組合運動を指導した、ロバート・オーウェン(Robert Owen 1771~1858)が有名だが、彼らは現代では社会改革家(Social Reformer)として知られ、その目指す世界観はやがて「社会主義」と呼ばれることになる。つまりヒルは、社会主義の萌芽の時期に、多感な青年時代を過ごしたのだ。

 



産業革命期に活躍した社会改革主義者のロバート・オーウェン。

 

さらに、ヒルの場合は家族からの影響を多大に受けた。先に挙げた社会改革主義者ロバート・オーウェンと同世代のヒルの父親、トーマス・ライト・ヒルもまた、社会改革主義の熱烈な信奉者だった。一介の工場の主任に過ぎないものの、冒険心に富んでいて、因習を忌み、旧時代のシステムのすべてを嫌悪するような進歩的な人物だったようだ。
産業革命期にそのような価値観を持つ人が多く現れたのは時代の要請だったともいえる。ただしヒルの父親は1960年代のヒッピーにも似て、平等と平和と愛に満ちた社会を夢想するも、それを現実化する積極性を持たなかった。
一方で母親のサラは、働き者で地に足の着いた実践的なセンスに優れていたようで、彼女は自分が受けることのできなかった最高の教育を、息子たちに与えるつもりでいた。フワフワした空想家の夫は経済観念に乏しく、3代続いた家を手放すことになったものの、そんな夫を助けて一家を切り盛りしていた彼女は、やがて夫が給料の悪い工場に転勤になりしょげているのを見てこう言った。「そんな工場なんて辞めて、ご自分が本当にいいと思うような学校をお作りになったら? 息子たちはそこで学ばせましょう」。
すべてはそこから始まったのだった。

ドリトル先生の郵便局


ドリトル先生の郵便局のなかで描かれた非常に希少なファンティポ切手。© Project Gutenberg Canada
 植物から動物まで、あらゆる生物の言葉を解する医師、ドリトル先生の活躍を描き、今も世界各国の子供たちに読み継がれるヴィクトリア朝時代の児童小説「ドリトル先生」。全13巻に及ぶシリーズでは、ある時はアフリカ、またある時は月を訪れたり、海底を探検したりと、ドリトル先生は様々な冒険を繰り広げるのだが、その中の4巻目が「郵便局」。
アフリカの架空の国、ファンティポ王国の君主ココは大の新し物好き。自転車を乗り回しゴルフを習うかなりの西洋カブレだが、ある時、謁見した西洋人から、英国で始まったという郵便制度の話を聞く。赤い箱を街角に置き、そこへ小さな紙を貼って投函すれば、世界中に手紙が届く、魔法のようなシステムだという。ココ王は早速、郵便局を開設。さらに王の肖像入り切手を外国のコレクターが欲しがることに着目し、珍しい切手を立て続けに発行して、莫大な外貨を稼いだ。しかし集配機能は完全に破綻し…。そこに呼ばれるのがドリトル先生で、先生はずさんな郵便制度の立て直しに尽力する。ツバメを使った世界最速郵便を導入し、動物の通信教育も始まって…。
本作が発表されたのは1923年。ローランド・ヒルの郵政改革発表から80年あまりが経過しているが、世界に郵便システムが広まる中で、上記の物語のような事件が実際起きていたとも限らない?

ドリトル先生の郵便局
作・絵:ヒュー・ロフティング   訳:井伏鱒二   岩波少年文庫
Dr. Dolittle's Post Office
by Hugh Lofting   Red Fox Publishing

 

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