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2013年11月21日

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部


© The Mary Rose Trust

 

英海軍のお膝元、イングランド南部の港町ポーツマス。
800年の歴史を誇る軍港の一部が、「ヒストリック・ドックヤード」の名で一般に公開され、
海軍史きっての名艦や、海軍の活動を身近に感じられる地として親しまれている。
同エリア内に、今年5月、16世紀の沈没船メアリー・ローズMary Roseのための
博物館がリニューアル・オープンした。
今回は、海底で400年以上も眠り続けた同船の引き上げの軌跡を紹介するとともに、
「ポーツマス・ヒストリック・ドックヤード」を征くことにしたい。

参考資料:「The Mary Rose Revealed」「Tudor England」ほか

 

突然姿を現したヘンリー8世の船

 「網に何かが引っかかって、ちっとも漁が進みやしない。調べてもらえないだろうか」
ポーツマスと、その南に位置するワイト島を隔てるソレント海峡の浅瀬で漁を行っていた地元の漁師が、ダイバーのジョン・ディーンとウィリアム・エドワーズの元を訪れたのは、1836年のことだ。当時ジョンらは、1782年に沈没した戦列艦「HMSロイヤル・ジョージ」の引き上げに従事していた。
漁師の指し示す場所とロイヤル・ジョージ探索地は1キロほどの距離とそう離れてはいない。また、沈没船探索に携わるダイバーらにとって、海は尽きることのない関心の対象だ。彼らは漁師に依頼された場所に潜ってみることにした。ほどなくして、漁を邪魔していたのが古びた木材であることがわかると、ふたりは心の中にざわつく何かを感じた。あるいは、ダイバーとしての勘のようなものが「何かある」と知らせたのかもしれない。さらにその周辺を調べていくと、朽ちた木材と海底から1メートルほど突き出した大砲に出くわしたのだった。
「いつの沈没船だ…?」
1960年代以降の調査によると、大砲が発見されたとされる場所は、水深14メートル程度。それより130年ほど早い1836年当時、水深がどのくらいであったかは想像の域を出ないが、同程度とすると、引き上げは簡単ではなかったと思われる。しかしふたりは何とか大砲を引っ張り上げることに成功した。長期にわたって海底に沈んでいたと見られるその大砲には、泥がこびりついていた。汚れを丁寧に落としていくと、一部に現れたのは、チューダー家の紋章、チューダー・ローズだった。

 



右/ヘンリー8世。上/後に描かれた、沈没時の様子。
中央の要塞(サウスシー・キャッスル)の手前に、騎乗したヘンリー8世が描かれている。

 

 考えられるとするなら、1545年に沈没したヘンリー8世の旗艦メアリー・ローズか…!?
ふいに顔を出したチューダー朝時代の断片をきっかけに、ディーンらのメアリー・ローズ探索が始動した。来る日も来る日も潜り続けたディーンたちは、鋤を使って海底を掘り、泥をかき分けて、沈没船の痕跡を探し求めた。そして、マストや弓矢、大砲などを海の底から持ち帰ってきたのだった。
ところが、この作業が4年ほど続けられたあと、プロジェクトは突然終わりを迎えてしまう。メアリー・ローズのものと思われる装備品を博物館に売ったり、オークションにかけたりして得た現金をもとに作業が行われていたのだが、資金が底をついたのだ。ディーンらが断念するのも無理はなかった。海底の厚い沈泥層相手の探索は容易ではなく、また探したところでそれ以上の何かが見つかる保証もない。実際、このときに海底の幾重にも重なった沈泥の下でメアリー・ローズがひっそりと息を潜めていることを、誰が知り得ただろう。目を覚ましかけた彼女は、こうして再び深い眠りへと戻っていった。

 

 

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