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2014年6月19日

●征くシリーズ●取材・執筆/名越 美千代・本誌編集部

住む者を魅惑してやまぬ
ケントのノール邸を征く

 

イングランド中世後期に、
王に次ぐ権威を誇ったカンタベリー大司教がその威厳の証として築いた、
国内最大級といわれる大邸宅、ノール。
代々の大司教に受け継がれ、17世紀からは名門貴族、
サックヴィル一族の代々の棲家とされてきた。
その廊下や大階段は、これまでに何人の王族、
幾多の貴族たちが歩いたことだろうか。
500年の歴史のかけらが積み重なり現在の姿となった邸宅と
秘密の花園というべき庭を今号ではご紹介したい。

 

大司教の権力を見せつけるための地

 「カレンダーハウス」。
365の部屋があり、それぞれの部屋で1日過ごしたとすると、1年かかることになる―そんな異名を持つ館が、緑豊かなケントで年月を刻んでいる。
歴史的名所や自然的景勝地を保護するナショナル・トラストが管理する数々の邸宅の中でも、このノール邸(Knole)の規模は特筆に値し、建物総面積4エーカー(約1・6ヘクタール)、階段の数52、入り口12、そして7つの中庭を有する。ただ、部屋数については正確にいうと365には満たないそうだが、それに近く、まさに宮殿とも呼べるレベルである。
敷地と、外の世界とを結ぶ門からは建物はまったく見えず、丘陵地をしばらく登らなければ正面玄関には着かない。本邸は周囲をさらに約1千エーカー(約405ヘクタール=東京ドーム約85個分)もの緑地公園に囲まれているからだ。

 



王族、有力貴族の肖像画(複製も含む)がずらりと並ぶ、
ブラウン・ギャラリーThe Brown Gallery。© National Trust Images

 

 ノールとはもともと「草で覆われた丘の家」を意味するという。ケントを含む英国南東部にはウィールド(Weald)と呼ばれる森林丘陵地帯が広がっており、ノールとその周囲の緑地公園もその一部だ。緑地公園では自由に散歩が楽しめるが、野生のダマジカや日本シカが500頭ほど生息しており、また、めずらしい野生生物や植物の生態系も見られることから英国の自然の研究に大切な地域としてSSSI(Site of Special Scientific Interest)に指定されている。
この素晴らしい環境に恵まれた土地に現在のノールの原型となる建物が生まれたのは中世後期のこと。1456年に、当時のカンタベリー大司教、トーマス・ブーシェが、カンタベリーとロンドンのちょうど中間地点となる理想的な立地に目をつけ、ここにあった不動産を買い取ったのが始まりだ。
ブーシェが買い取った物件がどの程度のものだったのかは記録が存在しないため不明だが、当時のイングランドにあって、カンタベリー大司教という役職は王位の次に高い地位。キャリアの頂点まで登りつめたブーシェは、自分の偉大さを見せつけるような、権威の象徴としての『宮殿』をここに築きたかったようだ。そして、支配者層の娯楽であったシカ狩り用の公園をあわせて作ったのも、こうした公園を持つには王からの許可が必要であり、それだけの力を自分が持っていることを世に知らしめるという意味もあったであろう。

 

 

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