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【征くシリーズ】Holiday

2016年9月15日 No.950

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イングランド南80マイル 星降るサーク島を征く

イングランド南80マイル

星降るサーク島を征く

チャネル諸島に属する英国の離島、サーク。
人口600人ほどのこの島には、夜道を照らす街灯もなければ、キャッシュ・マシーンもなし、車さえも走っていない。
都会に住む者にとっては不便に感じられるかもしれないが、そこには満天の星空と、独自のリズムで生きる人々の暮らしがあるという。
あわただしいロンドンの街を離れ、彼の地へと旅に出た。

●征くシリーズ●取材・執筆・写真/本誌編集部

封建制の島

サーク島の主要部分とリトル・サークをつなぐ地峡「ラ・クーペ」。左右には海が広がり、眺めは壮観!
ヨーロッパの有名な観光地はもう押さえたし、ビーチでのんびりという季節でもない。でもふらっとどこかに出かけたい、そんな思いを抱いている人に届けたい今回のサーク(Sark)特集。「離島」と聞いて、なんだかよくわからないけど特別な体験ができそうと思う人も多いのではないだろうか?
島の散策を始める前に、まずはこの島の歴史を簡単にまとめておきたい。
サーク島は、英仏海峡に浮かぶチャネル諸島(Channel Islands)に属している。同諸島を構成するジャージー島、ガーンジー島、オルダニー島を含む主要4島の中でも最も小さく、わずか5・45平方キロメートルの面積は、沖縄県の竹富島とさほど変わらない。
イングランド南岸から80マイル、フランスのサン・マロ湾からは20数マイル。距離で見ればフランスに属するのが自然だ。しかし、もともとフランスのノルマンディー地方の一部だったこの島は、1066年にノルマンディー公ウィリアムがイングランド王として即位して以来、イングランド(のちに英国)の一部として今日までの歴史を歩んできた。
イングランド領になったとはいえ、本土から遠く離れた島の管理は行き届かず、そのせいでフランスからの侵略を受けることもたびたびあった。この事態を懸念し策を講じたのが、時の女王エリザベス1世である。1565年、女王は当時ジャージー島の一部を支配していたヘリエ・ダ・カータレイに統治権を与え、フランスおよび海賊から島を守ることを命じた。カータレイは島内を40区画に分け、それぞれを臣下に付与し、臣下らには島の警護を義務付けた。さらに島の長として、40人の臣下らとともに議会を構成する形でサーク島の封建制を誕生させた。
その後、領主や臣下らの地位は代々受け継がれ、「中世ヨーロッパの典型」とされるこの封建制度は、時代とともに少しずつ形を変えながらも、驚くことに20世紀に入っても続けられた。
だが、英国本土からの移住者が増えるにつれ、サークに変化の波が押し寄せた。新しい住民たちから、「島の制度は今の時代にそぐわない」と不満の声が上がるようになったことで、欧州人権裁判所が封建制の停止を指示。これを受け、わずか8年前の2008年に民主制に移行し、この年、初めての選挙が実施された。
こうした事情からもわかるように、サーク島は英国領でありながらも高度な自治権を持ち、独自の法の下でおよそ600人が暮らしている。

馬で駆ける島

海岸線には無数のフットパスがあり、散策を楽しめる。奥はサーク島に属するブレクー島。テレグラフ・グループを保有する、バークレイ兄弟が1993年に購入し、ゴシック・スタイルの城を建てた。
さて、島の散策を始めてみよう。
島内を歩けばすぐにサーク独特の文化に触れることができる。一番わかりやすいのは「非・車社会」だ。サーク島では車が禁じられている。町に車が走っていないというのは少し奇妙な感覚で、すべてが牧歌的な風景に映る。トラクターが町を走る光景(農業や建設業などを理由に許可を得た人だけが運転できる)などは実にのどかだ。事故や火災が発生した場合にも、トラクターが救急車両、消防車両を牽引する形で出動するのだという。
島民の足として活躍するのは、自転車と馬。馬は観光にも利用され、馬車に乗って島を回るツアーは観光の目玉だ。島の歴史や生活スタイルなどについて説明を受けながら、1時間で島の北側を、あるいは2時間かけて広域を巡ることができる。
少しだけ視界の高い馬車から見る島の景色は格別で、ツアー中、草木の向こうに突然現れた海の美しさに胸を打たれることもしばしば。リズミカルに刻まれる馬の蹄の音を心地よく感じながらの周遊は、徒歩や自転車とは一味も二味も異なる体験となるに違いない。
特におすすめは、島一番の絶景ポイント「ラ・クーペ(La Coupee)」が含まれる2時間のコース。
ラ・クーペは島南部にある地峡のことで、サーク島のメイン部分と、その南にぶら下がるリトル・サークをつないでいる。高さ80メートル、幅わずか3メートルほどの細長い道が延びていて、どこか別世界へつながっているのではないかと思わせる、壮大な景観が広がっている。馬車ツアーに参加しない場合でも、ここは必ず訪れたい場所。特に写真が好きな人には絶好の撮影スポットだ。
馬車ツアーで島の概要をざっくりとつかんだら、自転車を借りて自分の足で散策に出かけてみたい。島内にはレンタサイクル店が3ヵ所あり、滞在中はかなり重宝する。馬車ツアー中に気になった場所を再訪するのもいいし、リトル・サークに足を伸ばしてみるのも良いだろう。車が通らない道を、のびのびと自転車にまたがって走る爽快感を堪能していただきたい。
一方、海岸線沿いには無数のフットパスがあるので、気の向くままに散策するのもサークの楽しみ方のひとつ。波の音を聞きながら海からの強い風に打たれるように歩けば、日頃の悩みごとなど小さく思えてくるかもしれない。エメラルドグリーンから濃紺に変わる海の色のグラデーションや、いたずらに描かれたような複雑なラインを見せる海岸線を眺めてほしい。

星の降る島

日が高いうちに変化に富んだ姿で人々を魅了したあと、サーク島は夜の顔を覗かせる。
車が許可されておらず、街灯も設けられていないこの島は、夜になれば深い深い闇に包まれる。ロンドンでの生活に慣れた取材班にとって、時間が進むにつれてじわじわと迫ってくるような夜の闇は想像以上に暗く、最初は恐ろしくもあったのが正直な感想だ。
島内の環境に加えて、サーク島は最も近いガーンジー島から6マイルも離れた孤島であることから、夜空の暗さは一層深みを増す。こうした条件が重なり、サーク島は美しい星空を持つ島として、国際星空協会(International Dark-Sky Association)により、ダーク・スカイ・アイランドに指定されている。
天気が良い日には、まるで星が降り注ぐようなさまを肉眼で観測することができ、水平線から水平線までのびる天の川を眺めることができるという。
残念ながら取材班が滞在した2日間は満月に近く、強い月の光に星が隠され、満天の星空は見られなかった。ただ、夜の暗闇と静寂を実感し、都会の生活では決して得られない貴重な体験となったことはお伝えしておきたい。

ぬくもりの島

メイン・ストリート「The Avenue」を走る馬車。地元の人の足となるだけでなく、観光用にも使われる。「The Avenue」の東端で拾うこともできるが、あらかじめ予約しておくとスムーズ(ビジター・センターに情報がそろう)。乗り合いで1時間10ポンド、2時間15ポンドが相場。
せっかくならば島の人々の暮らしにも触れてみたい。おすすめは、夕食の買い出しと思しき人たちでにぎわいを見せる夕方のメイン・ストリート(The Avenue)。自転車を道の脇に停めて「鶏はもう卵を産んだ?」と話す人々の会話が聞こえてきたかと思えば、スーパーのレジでは「今晩のペタンク(フランス発祥の球技)に参加する?」といった声が飛ぶこともある。町の会話に耳を澄ませば、初めて訪れたとは思えないほど、コミュニティの存在を心地良く感じることができるはずだ。
また、島内では定期的にイベントが催され、観光客でも温かく歓迎してもらえるので、参加してみるのもいいだろう。スーパーで聞いた「ペタンク」は、まさにその日の夕方に行われていたもの。こうしたイベント情報は、「The Avenue」の西端にあるビジター・センターや、東端にある島の掲示板で告知されているので要チェック。
かくいう取材班も、島中心部にあるアイランド・ホールで行われた夜のトーク・イベントに出かけてみた。サークの夜は暗闇に包まれて静かと書いたが、このアイランド・ホールだけは空気が異なり、地元の人で大にぎわい! 食堂でフィッシュ&チップスを食べながら語らう人々や、上階のパブでスポーツ観戦しながらパイント(1パイント2・30ポンドという衝撃の安さ!)を傾ける男性たちなど、いかにも英国的な光景が広がっていた。取材班には、トーク内容を差し置いて、このアイランド・ホールの盛り上がりの方が強く印象に残った。どうやら金曜夜は特に多くの人が集まるらしく、「サークの人々がどんな風に余暇を楽しんでいるかを知るならばここが絶好の場所」なのだと島の人が教えてくれた。
サーク島には観光アトラクションと呼べるものが多いとは決して言えない。にもかかわらず、この辺鄙な島を繰り返し訪れる観光客は少なくなく、例えば取材班が度々顔を合わせた家族旅行者は、毎年足を運ぶのだそう。その理由を尋ねてみると、「サークは有無を言わさずリラックスさせてくれる場所だから」との答えが返ってきた。それを聞いたときは、ぼんやりと相槌を打ったのだが、取材を終えてロンドンに戻ってから、この意味を正しく理解した。行き交う車の音や、街の様子が騒々しく感じられ、「何かあったのかな?」と周囲を見渡してみて、改めてサークでの安らぎを実感したのだった。
ロンドンからサーク島へは、まず飛行機でガーンジー島まで飛び、その後、フェリーに乗り換えなければならない。直行便で目的地にたどり着くシティ・ブレイクに比べると、少々面倒ではある。しかし、ゆったりとした時間の流れを感じながら島内を散策し、夜は満天に輝く星空を眺め、そして圧倒的な静けさの中で眠りにつくという旅は、多少の労力を補ってあまりあるほどのくつろぎをもたらしてくれるだろう。この秋、普段の旅行とは一味違った「辺境への旅」を体験してみてはいかがだろうか。

写真左:小さな島とはいえ、徒歩で回りきるには時間も体力も要する。滞在中は自転車を借りると便利。島の隅々にまで出かけてみよう。海に向かって伸びる一本道を走るのはかなり気持ちがいい/同右:散策中に遭遇した羊の群れ。脇目も振らずに目の前を通り過ぎていった。

サーク島を楽しむ 旅の How To

①ベストな季節はいつ?

観光のハイシーズンは、マリンスポーツも楽しめる4月から10月だが、星を楽しむには、夜が長く気候が穏やかな秋がベスト。とはいえ、10月以降は島を行き来するフェリーの運行便数が減り、島へのアクセスが悪くなってしまうので日程にはゆとりが必要。また、満月に近い時期は月の明るさに星が覆い隠されるので、あらかじめ月の満ち欠けを調べて旅の日程を決めたい。

②ロブスター&ホタテに舌鼓

四方を海に囲まれたこの島のシーフードはかなりいける。しかも値段の割りにボリュームたっぷり! おすすめはカニ、ホタテ、ロブスター=写真。提供するレストランは限られるので、ビジター・センターで確認したい。日によってはない場合もあるので、事前確認&予約が必須。11月から3月にかけては漁が禁止されているため、新鮮な魚介は期待できないが、サーク産の牛や羊、豚などが楽しめる(サークの漁師は冬になると農民に変身するらしい)。また、ほとんどのレストランが午後8時半には完全に閉まる上、繁忙期は予約で埋まる可能性も高いことを心得ておくべし。

③自分に合った宿泊スタイルを

島内での宿泊は、2軒あるホテルのほか、ゲスト・ハウス14軒、セルフ・ケータリング26軒、キャンプ・サイト2ヵ所など選択肢が意外と多い。外食先の数・時間帯が限られているため、セルフ・ケータリングは便利。取材班が滞在した「The Loft Apartment」=写真=は、隅々まで手入れが行き届き、家族で気持ちよくプライベートの時間を過ごすには最適。オーナーのジュリーさんが島の見所を教えてくれる(www.closdelatour.gg)。宿泊情報は観光局のウェブサイトにて(www.sark.co.uk)。

④海からサークを眺めてみる

島内の散策中に見た美しい海岸線を海上から眺めるのもまた特別なもの。先祖代々この島に暮らす生粋のサーク島民のジョージ・グイーさん=写真右=のボート・トリップ(約3時間、1人28ポンド)には定評があり、島を回りながら、草花や渡り鳥について解説してもらえる。春から7月中旬には、黄色いくちばしと、ふっくらとした体型で愛嬌たっぷりの渡り鳥「パフィン」(ニシツノメドリ)が見られるのも、このツアーの魅力。

↓画像をクリックすると拡大します↓

サーク島の観光地図

Travel Information

※2016年9月12日現在

ロンドンからのアクセス

各空港から飛行機でガーンジー島へ(1時間30分弱)。ガーンジー島からはフェリー(Isle of Sark Shipping Company: www.sarkshippingcompany.com)でおよそ55分。フェリーの運行は、夏は1日4~5本、秋(9月17日~10月30日)は2~3本。11月以降は、ウェブサイトでご確認を。片道14.25ポンド。ジャージー島からもフェリーが運行されているが、便数は少ない。またサーク島では、大きな手荷物を船着場から宿泊先まで運んでもらえるサービスもある(宿を予約した際に、詳しい情報がもらえるので、予約確認メールなどでご確認を)。

オーリーニー航空

ガトウィック、スタンステッド、シティの各空港からガーンジー島行きの飛行機を1日9便運行する唯一の航空会社。
機体に描かれた渡り鳥「パフィン」の絵がトレードマーク。
www.aurigny.com

通貨

基本的に英国本土のポンドが流通しているほか、ガーンジー島、ジャージー島の紙幣と硬貨も使われる(レートは本土と1対1)。キャッシュ・マシーンはない。

Special thanks to: Sark Tourism (www.sark.co.uk)

 

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