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2015年7月2日 No.888

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Hague Convention

これだけは知っておきたい

ハーグ条約 基本のキホン

国際結婚をしている人に限らず、 海外に居住する我々日本人にとって、 気になる条約が昨年4月、日本において発効した。 「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約」(以下ハーグ条約)だ。今号では、ハーグ条約の概要と疑問などを 編集部なりにまとめた基礎知識とともに、 条約締結後の日本の状況などをお届けしたい。
取材協力:外務省(在英国日本国大使館 領事班)

●サバイバー●取材・執筆・写真/ネイサン弘子・本誌編集部

「国際結婚」という言葉に華やかな響きを感じる人は少なくないかもしれない。異なる文化背景を持つ者同士が、異なるからこそ惹かれ合う反面、異なるからこそ越えられない相互理解の壁が立ちはだかることもある。言葉の壁や文化、価値観の違い、母国から離れて外国で家庭を持ち暮らす苦悩や淋しさなど、憧れていたものと違う現実もあることだろう。
そんな時、気軽に「少しの間、実家に帰らせていただきます」とはいかないのが国際結婚生活の難しい所。困難を乗り越えていく夫婦がいる一方、残念ながら結婚が破綻する夫婦もいる。厚生労働省の発表によると、国際結婚をした日本人の離婚率は4割と高い。そしていざ離婚となった時に、子どものいる家庭の場合、一番に考慮しなければならないのが、その子どもの存在だ。
世界的なグローバル化の流れにより、国際結婚・離婚が増加したことで、1970年代頃から一方の親による国境を越えた子の連れ去りが国際問題として注目されはじめ、世界共通のルールを制定する必要性があると世界的に認識されるようになった。そこで1976年、国際私法に関する統一を目的とする国際機関「ハーグ国際私法会議」(HCCH)は、この問題について検討することを決定。1980年10月25日、一方の親によって外国へ連れ去られた子どもを元の居住国へ返還することを原則とした条約を作成した。オランダのデン・ハーグ(下記参照)で作られたことから通称ハーグ条約(Hague Convention=英語では「ヘイグ・コンヴェンション」)と呼ばれている。
国境を越えた子どもの連れ去りなどにより、もう片方の親や親族に会えなくなるばかりでなく、子どもにとってそれまで慣れ親しんだ生活が突然急変することを余儀なくされることは、子どもの利益に反し悪影響を与える可能性がある。本条約では、そのよう事態から子どもを守るため、原則として元の居住国に子を迅速に返還するための国際協力の仕組みについて定めている。どちらの親が子どもの世話をすべきかの判断は、子がそれまで生活を送っていた国の司法の場において、子の生活環境の関連情報や両親双方の主張を十分に考慮した上で、子どもの監護について判断を行うのが望ましいと考えられているため、まずは子どもを前居住地に戻した上で、必要であれば現地での裁判を促すという形をとる。
また、国境を越えて所在する親と子どもが面会交流できない状況を改善することは、連れ去りなどの防止や、子どもの利益につながると考えられるため、本条約は国境を越えた面会交流実現への協力についても定めている。

日本の加盟までの長い道のり

ではなぜ、条約作成から24年も経過した今になって日本が本条約を締結するに至ったのだろうか。その理由として、ハーグ条約は欧米諸国を中心に作成されたものであるという点がまず挙げられる。

欧米諸国と非欧米国間の国際結婚の場合、多くのカップルの居住地が欧米国となっており、大抵の案件が、非欧米国に連れ去った子どもを、欧米国に引き渡すという内容であった。そこで、連れて来た子どもが他国へ返還させられることは、自国民の利益にかなわないと考えられており、当初は日本を含め、欧米以外の国はほとんど条約に加盟しなかった。
しかし、その後も増え続ける国際離婚に伴い、加盟国は増加。日本においても1970年に年間5000件程度だった国際結婚は、1980年代後半から急増、2005年には4万件を超えた。日本と欧米諸国の間でも、特に日本人女性が、結婚生活の破綻後に父親の同意を得ることなく子どもを日本に連れ去り、面会させないという事案が相次いで発生。英国においては、2008年に外国へ子どもが連れ去られた事例は336件で、東アジアにおいては日本人が関わる事例が多いことが報告されている。
その結果、残された親が長年に渡り日本に居住する子どもと連絡すら取れないという事態が発生し、欧米の加盟国から、日本の加盟を強く求める声は日増しに高まっていった。一方で、外国人の親により、日本から子どもが連れ去られる事案も発生。
さらに、本条約は、連れ去られた国と連れ去った国両方が条約締結している場合のみ効力を発する条約。そのため、外国で離婚し暮らしている日本人が、日本が条約未締結であることを理由に、連れ去りの意思がないにもかかわらず、連れ去るのではないかと疑われて、子どもと共に日本へ一時帰国することができないケースも起こっていた。
こうした状況の中、日本政府は2011年1月に、ハーグ条約の締結の検討を開始。関係省庁が会議を開催した結果、締結には意義があるとの結論に達し、条約締結に向けた準備を進めることを閣議了解した。そして2013年6月、「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律(ハーグ条約実施法)」が成立。自国の法整備を整えた上で、14年4月1日、日本においてハーグ条約が発効したのだ。  条約を結ぶことで、日本から子どもを連れ去られた時に、相手国が条約加盟国であれば、これまで当事者が自力で行ってきた、相手国から子どもを連れ戻す手続きや、親子面会交流の確保のための手続きを、政府機関を通じて進めることが可能になる。そして、日本が条約を締結したことが周知されることで、外国と日本双方への子どもの連れ去りを未然に防止する効果が期待できる。さらには、外国で離婚し、暮らしている一部の日本人が悩んでいた、子どもを連れての一時帰国がなかなか許してもらえないという問題の改善が見込めるのだ。
ハーグ条約への日本の加盟を、やみくもに、「難しそう」「大変なことになった」などと思い込まず、まずは理解を深めていくことから始めてはどうだろうか。何よりも大切なのは子どもの幸せだと考える人に、道は開けると信じたい。

こんな事例も…

「連れ去られた娘、引き渡して」

米国人男性が異例の申し立て
日本人母は死去、祖母が後見人


当時婚姻関係にあった日本人女性に娘を連れ去られたとする米国人男性(47)が6月1日、娘の養育権と身柄引き渡しを求める申立書を東京家裁に送付したことが分かった。女性は離婚後に死去、娘は女性方の祖母が後見人として日本で養育している。専門家によると、国際結婚した親が養育権を求める申し立てで、子どもの親権者が不存在のケースは異例。子どもの連れ去りに厳しい米国との国際問題に発展する可能性もある。

男性の日本側弁護士によると、男性が日本人女性と結婚後、数年で娘が誕生。日本国内で暮らしていた時期に女性が男性に無断で娘を連れて国内の実家に戻った。平成18年に離婚が成立し、女性が娘の親権者になったが、翌年に自殺。娘は親権者を失い、女性方の祖母が娘の後見人となって日本で育てている。
男性は「隣人が電話で『引っ越すのか』と聞いてきた。すぐに帰宅したが、妻が娘を連れていなくなっていた」と連れ去りの状況を話す。男性は米国でも娘の養育権などを求めて提訴したが、「米国に司法権がない」として認められなかった。連れ去り後、21年までに2回しか娘と会っていないという。
男性は「唯一の親が知らない間に、祖母が娘の後見人となった決定は無効」として、娘の養育権と身柄の引き渡しを求める審判を求めた。男性の日本側弁護士は「民法は監護者を決めるときは子どもの利益を最優先すると定め、『子の不当な連れ去りが不利に働く』とする法相の国会答弁もある。父親との交流を妨害する祖母の行為は未成年である娘の養育に重大な害悪を及ぼす」と主張している。
家族法に詳しい早稲田大学法学学術院の棚村政行教授は「国際結婚で子を連れ去った片親が死亡し、親権を失った方の親が養育権を求める審判は非常に珍しい。離婚しても子どもに会うのは親の当然の権利とする米国と日本の文化の違いが際立つことになるだろう」と話す。
日本では昨年4月、国境を越える子の連れ去りの扱いを決めたハーグ条約が発効されたが、今回のケースは国境を越えておらず、発効前の連れ去りで対象にならない。ただ、関係者は「米国政府は日本人が思っている以上に子どもの連れ去り問題を重要視している。申し立てを受け、日本への風当たりが強くなるかもしれない」と国際問題に発展する可能性を指摘する。
祖母は産経新聞の取材に対し「コメントはない」とした。
(産経新聞より)

ハーグ条約 Q&A

Q1 もう片方の親に無断で子どもを日本に連れて帰った。これって犯罪?
A1 ハーグ条約は子どもの連れ去りを刑事的に罰する条約ではない。ただし、国によっては、他の親権者の同意なく子を国外へ連れ出すことが誘拐罪等に問われ、逮捕されることもある。英国においては、親が他方の親の同意を得ないで子どもを国境を越えて一方的に連れて去ると、たとえ実の親でも刑法違反となり、英国に再渡航した際に逮捕される場合もある。日本では、国内であっても、親が子どもを連れ去った場合、誘拐や略取に該当する行為があれば、未成年者略取誘拐の犯罪とされることもある。

Q2 子どもの返還要請が出されたら、必ず返還しなければいけない?
A2 ハーグ条約では、原則として子どもを元の居住国に返還することになっているが、返還することで、子どもに重大な危険がある場合などは返還を拒否することもできる。

ハーグ条約の返還拒否事由一覧
●連れ去りから1年以上経過した後に裁判所への申立てがされ、かつ子どもが新たな環境に適応している場合。
●申請者が連れ去り時に現実に監護の権利を行使していなかった場合。
●申請者が事前の同意または事後の承諾をしていた場合。
●返還により子どもが心身に害悪を受け、または他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険がある場合。
●子どもが返還を拒み、かつ該当する子どもが、その意見を考慮するに足る充分な年齢・成熟度に達している場合。
●返還の要請を受けた国における人権及び基本的事由の保護に関する基本原則により返還が認められない場合。

Q3 DV被害者に対する配慮はある?
A3 A2にある、「返還により子どもが心身に害悪を受け、または他の耐え難い状態に置かれることとなる重大な危険がある場合」にあたれば返還拒否となる。子どもの返還を求める親が、子どもに対し暴力を振るうおそれがあったり、もう一方の親に対して、子どもに悪影響を与えるような暴力を振るうおそれがあったりする場合は、これに該当する可能性がある。だが、子どもに対して、重大な危険が認められない場合は、返還が命じられる。

DVの事実があることをどうやって証明するか―。
●まず記録することが大切。日記、あるいは覚え書きなど、配偶者などにより暴力をふるわれた日時、その程度など、できるだけ具体的に書き残して置くこと(日本語で十分)。あとで、思わぬ形で役に立つ日がくるかもしれないという。
●第三者に通報・相談する(客観的な証明となる)。
①配偶者などに暴力をふるわれている場合は警察に通報する、あるいは相談することを考えるべき。警察がたとえ出動する事態にならずとも、通報・相談したという事実は記録として残るので、法廷で物的証拠として提出することが可能。
②日本大使館領事班に相談する(電話では、記録として公的に残らない。実際に出向く必要あり)。必要に応じて支援団体を紹介してもらうなど、次のステップに移ることになるが、支援団体はそれぞれ弁護士を抱えているのが一般的。法的な相談にのってもらうことも可能(Q8参照)。

Q4 英国で離婚した場合、親権はどうなる?
A4 あくまでも英国においての話になるが、両親が婚姻している場合、未成年の子に対する親権は両親に帰属し、両親が離婚した場合にも基本的には父母の親権は存続し、共同親権となる。

Q5 条約の対象となる「子ども」とは何歳?
A5 16歳未満。子どもが連れ去られた後に16歳に達した場合でも、ハーグ条約の対象外となり、返還命令を出すことはできなくなる。


Q6 ハーグ条約は国際結婚にしか適用されない?
A6 親と子どもの国籍に関係なく、子どもが国境を越えた形で不法に連れ去られていれば、日本人同士であっても条約は適用される。

Q7 費用はかかるの?

©parentdish
A7 連れ去られた子どもの返還援助を申請した場合、子どもの所在地を調査するための調査費用などはかからない。その後、当事者同士の話合いが困難な場合、外務省が委託契約している「裁判外紛争解決手続(ADR)機関」を利用して協議を行うことができる。この場合、ADR機関の利用手数料は外務省が負担する(上限額以上は利用者が負担)。ADR機関の利用による協議で決着がつかず、裁判になった場合の弁護士費用などは申請者が負担する必要があるが、経済的な困難を抱えた人は、弁護士費用等の貸付制度を利用できる。

Q8 子どもを連れて日本へ帰りたい、子どもを外国へ連れ去られた…困った時はどこに相談すればいい?
A8 条約締結国はハーグ条約を管轄する政府内機関を中央当局として指定しており、日本では外務省が担当。これをうけ、日本大使館領事班では海外に住む日本人に対して様々な支援を行っており、DVや家族問題、国際離婚に関する問題についても相談を受け付けている。支援団体、弁護士情報も提供してくれるので、英国在住の方はまずは下記にご相談を。どうぞ、独りで思いつめたりしないでいただきたい。
Tel: 020-7465-6565
※音声案内で日本語を選択→その他の照会→ハーグ条約に関する相談であることを告げる


キーワードのおさらい

「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)」
The Hague Convention on the Civil Aspects of International Child Abduction


ハーグ国際私法会議 (HCCH)
Hague Conference on Private International Law

国際私法に関する規則の統一を目的とする政府間国際機関。オランダ・ハーグに事務局を有する。日本はヨーロッパ諸国以外では初めての国として1904年から同会議に参加している。

残された親
left behind parent(LBP)


連れ去った親
taking parent(TP)


親権(監護権)
parental responsibility(child custodyとも言う)


中央当局
Central Authority

ハーグ条約に対応する各国の機関

子どもの奪取及び面会交流ユニット
The International Child Abduction and Contact Unit(ICACU)

英国法務省管轄の中央当局

裁判外紛争解決手続(ADR)機関
Alternative Dispute Resolution

裁判によらず、中立的な第三者が当事者間に介入して紛争を解決する方法。当事者間による交渉と、裁判の中間に位置する。

ハーグ条約発効後の日本における状況

2014年4月1日に日本においてハーグ条約が発効してから1年が経過し、初年度の処理件数は100件を越えた。この数字は、条約締結後の初年度の件数としては世界的にも一、二を争うレベルだという。この1年の申請状況と実績をみてみよう。
※数字は平成27(2015)年5月14日現在のもの。外務省領事局ハーグ条約室提供。

申請の受付状況
外務省が受け付けた申請件数:123件

▼外国から日本に連れ去られた子どもに関する申請:
返還援助申請:27件
面会交流援助申請:58件

日本に連れ去られた子どもの外国への返還が6件実現
● 任意の返還:フ ランス、ドイツ、ベルギー
● ADR(裁判外紛争解決手続機関)を利用した協議を経ての返還:カナダ
● 裁判による返還:スリランカ
● 調停による返還:スペイン

▼日本から外国に連れ去られた子どもに関する申請
返還援助申請:20件
面会交流援助申請:18件

外国のハーグ条約締結国へ連れ去られた子どもの日本への返還が5件実現
● 任意の返還:アメリカ
● 裁判による返還:スイス、スペイン、フランス
● 裁判所における和解による返還:ドイツ

ハーグという街

ハーグ条約の名称の元になっているオランダの都市ハーグは、北海沿岸に位置するオランダの都市だ。正式名称は「デン・ハーグ(Den Haag)」で、オランダ語では「デン・ハーハ」と発音される。同国第3の都市でありながら、国会、各国大使館、王室の宮殿が置かれ、事実上の首都といわれている。
また、ハーグ条約が作成されたハーグ国際私法会議事務局をはじめとする150もの国際機関が存在する国際司法都市となっている。そのため、ハーグは多くの建造物と歴史地区が佇む、荘厳な雰囲気漂う『平和と司法の街』とも呼ばれる。


ハーグが司法都市となったきっかけは、1899年と1907年の2回にわたって開かれた万国平和会議にさかのぼる。この会議では紛争の平和的解決と軍備制限、戦時国際上の諸問題を取り扱った。その後、世界平和という理念に基づき建設された平和宮殿(Het Vredespaleis)=写真右=が1913年に完成。ハーグは平和と司法の国際都市として発展していった。平和宮殿には、国際司法裁判所、国際紛争の平和的処理を目的とした常設仲裁裁判所、平和図書館などの組織・施設が入っており、ガイドツアーでは、宮殿の内部や庭園を見学することができる。
この他にも、王室の宮殿であるハウステンボス宮殿(オランダ語で『森の中の家』という意味)、世界的にも有名なオランダ人画家、フェルメールの「真珠の首飾りの少女」を所蔵するマウリッツハウス美術館、オランダで最も人気があるというビーチ、スヘフェニンゲン(Scheveningen)など、見所の多い街だ。
オランダの代名詞と言えばアムステルダムだが、オランダ人が「デン・ハーグを見ないことにはオランダを見たとは言えない」と語るオランダを代表する街のひとつであるハーグを、是非訪れてみてはいかがだろうか?
 

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